こんにちは。アルテミスです。
前回から始まった国の三権の解説パート、今回は行政について見ていきます。
立法が法律を作り、仕組みを作る役割を持つことは前回述べました。そう言えば前回触れてなかったですが、一般的な議会制民主主義の国では予算を作るのも議会の仕事です。予算は実際に行政がどこにどれだけお金を使えるかという枠になります。これもまた行政執行の「仕組み」を作るという事になるでしょう。
さて、このように議会の権限により拘束を受ける行政とは、言い換えれば統治です。過去に何度か書きましたが、一人のリーダーの元に、社会資源(税金とか)を実際に配分していくのが行政の役割になります。
議会の「政治」が法律や予算の枠組みを通じて行政権≒統治権を拘束し、「より良い統治」を実現するために抑制機能を働かせています。
さて、一口に行政と言ってもその幅はめちゃくちゃ広いです。税金を取るのが国税庁なら、警察は警察庁、消防は総務省。その辺の道路だって「国道」「県道」「市道」なら国交省か地方自治体が税金で引いて整備しています。病院も厚労省により七割負担しています。
他にも全ての産業は国が法律に基づき国民の利益を守っているか監督しています。某中古車販売店は車関連が国交省、保険が金融庁、労働問題が出れば厚労省、街路樹とかの環境問題は地方自治体など、一つ取っても複数の機関が絡んでいます。
我々の目に入る人工物で、国が一切関わっていないものはほとんど無いと言ってよいでしょう。道路標識、電車の車両規格、飲食品の品質など、全て法律や政省令等での指示があり、行政が管理しています。
国家のあらゆる面を監督(方針に基づいて働きかけ、法令違反が無いかを監視する意味での監督。命令し強制する統制とは使い分けます)するのが行政の仕事。そのために「こういう手順でここまでは介入していいよ、民間はこれやっていいよ、駄目だよ、行政はこれは介入しちゃ駄目だよ」を定めているのが立法の仕事ということになります。
ここからは日本の行政の簡単な解説と、その特徴を述べていきます。
●総務省…英語では「内務・通信省」。地方自治、郵便、情報通信、消防等を所管します。戦前最大の力を持った内務省の末裔と言って良いですが、かつて持った治安警察は分離されています。
●財務省…徴税と予算編成が主な任務です。この予算編成で財務省は大きな権力を発揮します。
●防衛省…自衛隊を指揮し、国防を担います。第一次安倍内閣までは庁でした。
●経済産業省…特に商工業や資源エネルギー、貿易等を所管します。言うなれば日本産業の司令塔です。
●厚生労働省…保健衛生、労働を所管します。元々厚生省と労働省で別だったのを統合しました。激務過ぎて強制労働省とか言われます。
●農林水産省…一次産業を所管します。戦後復興期にはここが最大の力を持ち、特別会計でブイブイ言わせたとかないとか。その後農林の価値がガタ落ちしたために国有林野事業債務管理特別会計として今度は特別会計でケツを拭いてもらってます。
●法務省…法に関わる事、また検察や出入国管理も所管します。司法省だった時代は人事権を通じて最高裁を支配下においてましたが現在は分離されました。
●外務省…外交を担います。首脳会談とかサミットとかはここの官僚が相手国外務省と九割九部くらいまで事前に内容を詰めています。明治時代に置かれてからずっと存続している唯一の省です。
●文部科学省…教育と科学技術を所管します。文部省と科学技術省が合併されてできました。戦前では文部省が内務省の統制下に置かれたりと教育行政というのは国の基礎を成す重要なお仕事です。
●国土交通省…交通、開発など土地絡みを所管します。北海道開発庁、運輸省、建設省、国土庁と四つも省庁を合成したキメラです。
●環境省…環境行政を担います。必然的に経済発展や開発を担う省庁とバトる事になります。
●国家公安委員会…警察庁の上にあり、治安行政を担う大臣委員会です。戦前にあっては地方行政を担う内務省傘下に警察があり無謬の権力を持ちましたが、戦後内務省が解体されて紆余曲折あって今は公安委員会傘下に警察は置かれています。
●内閣官房…政権のスポークスマンでもある内閣官房長官が率いる「政権の頭脳」であり、言うなら「国家行政の参謀本部」です。特に重要政策において各省の意見が衝突したりした場合、ここが間に立って調整なども行います。
●内閣府…内閣官房を補佐し(内閣を補佐する内閣官房を補佐する)、各省ではなく首相自ら実施する方が好ましい重要政策の実施を担います。もちろん首相がその全部を担うことなどできないので、「内閣府特命担当大臣」を任命してその実施を行います。
このように様々な省庁が存在し、経済発展のために産業を育成したい経産省と環境保護を至上命題とする財務省、国防力を強化したい防衛省と歳出を抑えたい財務省、というように同じく日本国家のためと言ってもお互いの目指す目標の違いから衝突することは日常茶飯事です。
特に日本の場合は毎年予算が各省が概算要求を出し財務省主計局が審査し、大臣折衝等を経てそこを通過したものだけが国会に提出されるので財布を握る財務省の意に反する予算請求ができず、必然的に財務省が大きな力を持ちます。
ただし財務省設置法に「健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ること」とあるように、財務省は国家の金庫番として浪費を戒め租税を集め、日本円の信用と価値を守る仕事があるため、財務省が歳出削減と増税を求めるのはその設置目的に適う仕事であることを忘れてはいけません。
勿論歳出を減らし、税金を上げるだけでは産業育成も経済発展も先細りになる一方なので、ここで求められるのは各省の官僚達の利害を調整する各省大臣や内閣官房、何より総理大臣のリーダーシップです。首相がどのようなビジョンを持ち、それを理解する大臣を任命してそれぞれの省の利害(目指す国家の方向性)を背負う官僚達を調整して行くかが健全な行政運営のため必要だということですね。
とは言え国会と比べると行政に国民が直接携われる幅は狭く、基本的には遠くから眺めることしかできません。一般国民にできるのはその政策の有効性をデータと実証を冷静に確かめ、選挙で審判を下すことです。
さて、ここまで国家行政について見てきました。いやー、一般論を超えて各論的な話になると私個人の思想が混じってきてしまいますね。可能な限り中立、かつ事実ベースの発言を心がけていきたいと思います。
本当は地方行政についても語ろうかなと思ったのですが無限に長くなりそうなのでこの辺で留めておきたいと思います。
それではまた、次の公演で。