皆さんこんにちは。アルテミスです。
さてさて、徒然思考も第五回になりました。
前回までは政治についてその概念から現代政治を構成する「民主主義」「共和主義」と言う要素を見てきました。
今回からはもう少し話を我々の身近な範囲に持ってきて、現代における「行政」「立法」「司法」について考えていきたいと思います。
一番最初にこれまでの回で話してきたことを下敷きに、三つの機能について簡単な説明をしたいと思います。
行政とは、国家にせよどの組織にも絶対に必要な機能であり、物事を指示し動かす機能を担います。マニュアルだけで人間は動きません。具体的な指示が必要です。その意味でいかなる組織にあっても欠いてはならない機能だと言えるでしょう。会社で例えれば取締役会、執行役員の仕事です。
立法は行政の暴走を拘束するための機構です。マニュアルを作り、行政にマニュアルに従って仕事をさせるための機能と言えます。その意味で民主主義的発想の機能だと言えるでしょう。会社で言えば株主総会がこれに当たるでしょう。
司法は行政と立法それぞれの暴走を監視するための機能です。民主主義の機構である立法府をも拘束すると言う事で、これは共和主義的発想の産物であると定義できます。会社で例えると監査役や金融庁、消費者庁などの法執行機関がこれに当たるのではないでしょうか。
さて、このように法を作る立法府、法に従い政を担う行政府、立法と行政の行動が適正かどうか監査する司法府と、三つの機能の相互抑制機能が権力分立の基礎です。
今回はまず立法府から細かく見て行こうと思います。と言うのも行政は立法府が作る法に拘束されるので、順序として先に立法を見た方が話がしやすいのです。
立法府、これは日本で言えば国会に当たります。日本国憲法では“国権の最高機関”と位置付けられてるので、要は日本の中で一番強い権力は立法だと言う事になりますね。
この辺は中学校公民のような話なのですが、立法府が機能するためにまず必要なのは憲法です。かつて明治日本が外国に領事裁判権を持たれ、その後必死こいて大日本帝国憲法を作ろうとしたのは、ひとえに法律を作り、機能させるには憲法が必要だったからです。
憲法は一言で言えば“その国がどんな国か”を規定するものです。憲章、理念、テーマと言い換えれるかもしれません。日本国憲法には日本が民主主義国家であり、権力が分立され、基本的人権の尊重や国民主権、平和主義が謳われています。これは日本国はこの理念を尊重しなければならず、これに反するような事は決してしてはならないと言う事を意味します。
憲法に基づいて議会は立法を行います。法律は行政に対して“何をどのようにやるか”というルールだったり“これはしていけない”制限だったり、国民に対して“これはしちゃダメだよ”と言う基準だったりします。
さて、ここまでは多分高校くらいまでまともに社会の授業聞いてた人なら皆分かる話だと思います。
「考えるための材料を提供する」事を目的とするこの記事の目的から、ここでは日本の立法府の特徴である“議院内閣制”“参議院”について考えていきたいと思います。
どの国でも国家のリーダーと言うものはいるのですが、日本で言えば内閣総理大臣がこれに当たります。世界どこを見渡してもリーダーが組閣して行政を担うのは大体同じなので、では何が違うかと言えばその選出方法です。
日本の場合議院内閣制と言って、立法府で選挙を行って首相を選びます。イギリスもそうです。
議院内閣制の仕組みを政治学では“融合型”とも言うのですが、何が融合型なのかと言うと行政権が立法権の支配下にあると言う事です。首相は立法府によって信任される立場なので、立法府に逆らえばすぐに内閣不信任決議を叩きつけられる事になります。これがアメリカのような“分散型”と違う点で、大統領が議会からリコールされることはありません。弾劾裁判はありますが、それは犯罪行為に対する訴追であって、議会の意志に反したからやめさせられる事はありません。
逆に言えば立法府の多数派と行政権は融合しているため、行政がやってほしい事は立法府が多数決ですぐ可決できます。大統領も各省長官も議会に席がないアメリカと違い、日本は大臣はほぼ全員現職の国会議員です。
そのため議院内閣制は決め事→執行の流れがスムーズと言う特徴があります。これ結構意外でしょう。逆にアメリカは権力分立が厳格なので大統領のやりたい事と議会がやってほしい事が対立すれば滅茶苦茶揉めて全然進まないって事良くあります。
次は参議院の存在ですね。
よく議会制の議論であるんですが「参議院は衆議院のカーボンコピーでしかない」とか「無駄に審議時間長引かせて全然話進まない」とかで廃止論がよく出ます。ここではその是非について議論する気はありませんが、参議院に求められる機能については説明しておきます。
元々参議院と言うのは大日本帝国憲法における“貴族院”でした。かつては日本にも華族階級が存在しており(ただしこれは中世欧州みたいな領地を持つ領邦貴族とは別物)、貴族で構成される議会が衆議院の暴走を抑える事を期待されていました。当時は民主主義に対する警戒心は強く、衆愚制が国の危機をもたらすと思われてたんですね。
つまりここでも“共和主義”の発想が顔を出します。民主政の暴走を抑制するための貴族院でした。
現代ではこれが参議院として生まれ変わり、任期六年で解散の無い参議院議員には、目前の世論に動かされる事無く長く広い視野で物事を見る“良識の府”としての機能が求められています。
衆議院の場合任期四年なんですが首相の“伝家の宝刀”解散権でいつ選挙が始まっても遅くないので支持者向けのパフォーマンスとか、短期的な人気取りの政策に偏りやすいと言う特徴(一般論です。皆がそうとか言いたい訳じゃないです)があります。
例えばある問題で世論が沸騰した時、衆議院がその熱に突き動かされて法案可決に走っても、参議院は「ちょっと待って、それ本当に大丈夫?」を議論できる立場にあるのです。参議院もある意味において共和主義的発想の産物と言えるでしょう。
これらが日本の国会を特徴づけている仕組みです。何が良くて何が悪いのかは有権者たる国民がそれぞれ考えていくべき問題ですので、いろいろ勉強してみると良いと思います。
最後に選挙制度と、それがもたらす政治の傾向について述べて終わりにしようと思います。私個人は民主主義の機能を働かせる上で最も大切なのは選挙制度の在り方だと考えています。
一般に世界で広く用いられる選挙制度は「多数代表制」「少数代表制」「比例代表制」に大別できます。
多数代表制は相対、または絶対的な多数派が全てを総取りする、と言う選挙方式です。代表的なものに小選挙区制があります。
小選挙区制は一つの選挙区の中で一人だけが当選すると言うものです。勝利した一人の候補者が総取りする形となる事から、ほとんどの議席は与党か野党の最大勢力に収斂し、結果二大政党制を生み出す事が特徴です。
二大政党制は対立軸が明確化する、有力政党が少ないため政治的混乱が起きにくいと言う利点の一方で、少数者の利益が蔑ろにされる、実際の得票率と議席数が乖離する(かつてイギリスの総選挙において野党第二党が全体では二、三割の得票を得たのに、議席はそれぞれの選挙区で与党と野党第一党がかっさらって一割も取れなかった)と言う欠点があります。
少数代表制は多数代表制の逆に、多数派だけでなく少数派にも議席が与えられるような仕組みです。この理由から後述の比例代表制を含む場合がありますが、ここでは区別して考えます。
代表的な少数代表制に、大選挙区制が挙げられます。小選挙区制の逆で一つの選挙区から複数の当選者を出す制度です。
その中でも一般的なものは「単記非委譲式投票」です。単記非委譲式投票とは、選挙の時沢山候補者がいる中で一人だけを選んで投票(単記)し、得票数上位から順に当選(票が効力を発揮するのは名前を書いた一人の候補者だけで他の候補に委譲されない→非委譲式)する選挙方式です。
例えばある選挙区で定数が3人で立候補者が7人の場合有権者は誰か一人だけに投票し、その得票数で上から3位までが当選と言う事になります。AKBの総選挙と同じ感じでしょうか。
これが何をもたらすかと言うと複数当選者が出るのでどの政党も可能なら議席を全部取りたいと思うので特に与党は複数候補者を出します。ただこの場合同じ政党の候補者同士が票を取り合う事になるので互いに競い合い党内の連携や党執行部の影響力が低下し、候補者のバックになる党内派閥の影響力が増大すると言う結果を生みがちです。
その一方で小選挙区制では浮上が難しい少数政党にも次点や次時点での当選チャンスが生まれ、少数意見の反映が可能となるメリットも存在します。ただしこれは比例代表制ほどに強いものではなく、強力な与党といくつかの強力な野党が政権を競う形が通常です。
なお単記非委譲式以外にも単記委譲式、完全連記など大選挙区制にはいくつかのシステムがありますが、それがもたらす結果としては上記のものとほぼ同じくなります。 (編集済)
最後に比例代表制を解説します。
比例代表とは先程も述べましたが少数代表制に近く、少数派にも議席配分が行われる、一つの選挙区から複数の候補者を出す制度です。そのため大選挙区制に区分される場合もありますが、一般的には分けて考えられます。
代表的なものに名簿式比例代表制が挙げられます。各政党が候補者を順位付けした名簿を作成し、各政党に対する得票率に応じて議席配分を行い名簿順に上から当選者を決める方式です。得票率に応じて議席配分を行うために、得票率と議会内勢力図が一致する事で国民の意志が確実に議席数に反映され、少数派も確実に有力な議席数を得られる利点があります。
ただしこれは少数政党の乱立を招き、最大政党も単独で過半数を得られず連立政権を組む事を余儀なくされると言う特徴があります。当然少数党同士の利害は食い違うため、議会審議や政権運営が停滞し、政治が不安定化する可能性があります。特に与野党の勢力が拮抗している場合与党内の少数政党が主導権を握り、極一部の意見が全体を支配する少数意見のパラドックスとでも言うべき状態が生起する可能性があります。
ヴァイマール制ドイツの選挙制度は全議席が比例代表制であり、結果少数党が乱立して政権が安定せず、小さな対立から選挙が繰り返されて国民の反発を招いたことが“現状打開の劇薬”としての極右ナチスと極左共産党の伸長を招き、ヒトラー政権を樹立させるに至りました。
もちろんこれは選挙制度のためだけではなく、第一次大戦の敗戦感情や世界恐慌なども混じっているので一概に選挙制度のためではない事には注意が必要です。どんな歴史的事件にも、様々な複雑な要因が絡み合っているので、一面的な判断はできないと言う例の一つです。
さて、このように選挙制度を見てきました。それぞれに一長一短はあり、理想的な制度構築と言うのが難しいと言うのが実態です。どれを選んでも何かを得る代わりに何かを捨てるトレードオフの関係性にある事は知っておいて損は無いでしょう。
さて、このように立法府についていろいろと見てきました。これが正しい、これは間違っていると言う価値観提供ではなく、あくまで考える材料提供のための文ですので、この材料から現実の政治を見て色々考えてくれると嬉しいです。もし参政権を持つ有権者なら尚更。
ではまた、次の公演で。