· 

徒然なるまま考える

 あけましておめでとうございます。アルテミスです。
 気が付けば二〇二三年がやってまいりました。コロナが始まってから四年目となりますが、今年は景気が上向き皆様にとっても佳い一年となりますことを祈念しています。
 因みに初詣に行っておみくじを引いてみたら小吉でした。

 さて、今回いーじす(ブログ担当)から突然ブログ書けと言われたので書き始めたのですが、正直書く内容がありません。忙しいくせに変わったことが起きず、フロムゼロ内でも特段文字に起こすような出来事も無く、危険な事も書けないのでマジでブログの内容がありません。
 そこでフロムゼロのチャットに何を書けば良いか聞いてみたところ、マーズが「ミリタリー関連で、兵站の話をしてほしい」と言っていたので(それ以外はまともなものが何一つ無かったので)、今回はそれに関する話をしてみようと思います。以下本題。

 さて、今回は目下起きているウクライナでの出来事から話を始めてみましょう。
 だいたい一年前、ブログでウクライナを取り巻く外交情勢に関する一考察を述べました。その後不幸にも最も避けるべき事態が現実のものとなり、侵攻開始から既に十ヶ月近く経った今なお交戦が続いています。
 私に限らず軍事というものに興味を持つ人々は、ウクライナ単独では到底ロシア軍に対抗し得ず一週間程度でロシア軍がキエフに突入してウクライナは地図上から消滅すると予想する者が大多数でした。

 しかしながら現実には殆どの人が予想できなかったほどにロシア軍の侵攻が上手く行かず、それどころかウクライナ軍が逆撃に出てロシア軍の戦線は押し戻されている状態です。
 ロシアとウクライナでは国力に大いに差がありますし、それは当然軍事力の差にも響いてきます。世界銀行のデータでは、2021年のロシアのGDP(国内総生産)は1.7兆米ドル、ウクライナのそれは2001億ドルです。余談ですが日本4.9兆米ドルとなっています。
 これだけ国力差があり、軍事力でも世界トップクラスの実力を持つ(はずの)ロシア軍が、どうしてウクライナ軍を相手に苦戦させられているのでしょうか。

 日本だと一時はウクライナ軍の対戦車ミサイル「ジャベリン」が強かったとか、露軍の士気が低いとか色々ニュースでは言われていましたが、それらは確かにウクライナ軍優位の理由の一環ではあってもそれがためにロシア軍が不利なのかと言われると首を傾げざるを得ません。前者はジャベリンと言うものは命中すればきわめて強力であるものの設備が大掛かりでRPGのように一人で携帯して敵を見つければ即撃てると言ったような小型兵器でないため使いどこが限られる装備です。後者は兵士たちの士気が低いのは戦闘が優位に進まないままに戦線が長期に渡って停滞しているから(後述しますがロシア軍が長期戦に備えた準備を行っていたとは思えません)発生している現象であるため、因果関係が逆だと私は考えています。

 さて、前置きが長くなりましたが、ここから話す話は「何故ロシアはウクライナを倒せないのか」と言うお話です。
 先にお断りを入れておきますが、ここで申し上げる話は全て私個人の憶測であり、正しいと言う保証はありませんし、むしろ誰かの意見を鵜吞みにしてそれが価値判断の基準となってしまうことは非常に危険ですので面白半分で見てあまり信じないでください。

 今回は論旨に寄せ純軍事的理由において考察しようと思います。そして「何故ロシアがウクライナを倒せないのか」と大風呂敷を広げると、現在進行形や未来の話まで広がり終わらないし仮定の話に満たされかねないので、「何故ロシアは一か月でウクライナを打倒できなかったのか」に分けて考察したいと思います。

 結論から述べると
1.戦線が広く、対してロシア軍の兵力が極めて薄弱である
2.軍の編成が、戦略目的と一致していない
3.外交的理由で動員ができなかった
4.兵站線が薄弱で、攻勢限界点を瞬く間に迎えてしまった

 以上四点がロシアがウクライナに軍事的に勝利できなかった理由の中で最も大きなものではないかなと私は推測しています(あくまで推測ですから真偽の程は読んだ人が考えてください。私はインフルエンサーでも学者でもないですから)。

 さて、では一つづつ見ていきましょう。
 第一の理由ですが、「戦線が広く、対してロシア軍の兵力が極めて薄弱である」です。ロシアとウクライナの国境線は千五百キロ以上の長きに渡ります。ちょっと実感が湧きづらいかもしれませんが、東京から鹿児島までの直線距離が千三百キロですから、それより長い距離に満遍なく軍隊を配置する必要があります。

 もしその千五百キロの横幅の前線に部隊を配置する、最低でもそこを敵が抜けて来るのを発見できない程に軍隊の数が不足していればどうなるでしょうか。後方の道路や補給部隊が攻撃され、前線部隊が窮地に陥る事は明らかです。或いは防衛線の隙間を抜けて敵軍が包囲機動を行えば、敵によって易々と囲まれてしまう事となります。
 そのために展開する軍隊は敵との前線に軍を配置し、横に長い戦線を築くこととなります。第一次世界大戦の西部戦線では北はベルギーから南はスイスまでの長い距離に渡って両軍が敵の突破を阻止すべく塹壕を掘っていました。

 その昔は一個師団(一万人程度)当たり守備できる正面は五~十キロとされていました。これより広い正面を守備しなければならない場合、師団は十分な戦闘力を発揮できないと言う意味です。現代では兵士一人当たりの戦闘力の向上や技術の進歩などによって距離当たりの必要となる部隊の数は減少していますが、それでも概ね五キロ程度の正面を守備できるのは一個大隊(三百~五百人程度)程度と言われています。
 これを千五百キロメートルのロシア・ウクライナ国境に当てはめて単純計算した場合、この正面を守備するのに必要な兵力は三百個大隊と言うことになります。なお上記の千五百キロと言う数字に二〇一四年にロシアが併合したクリミア半島とウクライナとの国境や、今回ロシア軍の一部がそこからキエフ向けて侵攻したベラルーシの国境分の距離は含まれていません。結局休養再編、後方守備用の部隊も考慮すれば四百個大隊程度は必要となる、と考えて良いのではないでしょうか。

 ではこれに対してロシア軍が投入した兵力はどの程度でしょうか。詳しくは後述しますがロシア陸軍の大隊としての戦闘単位はBTG,大隊戦術群となります。ロシア国防相の発言によれば侵攻約半年前の2021年8月までに編成する予定だったBTGは百七十個だそうです。侵攻までにさらに増強されたとして、当然この全てがウクライナ国境に配置されている訳ではないためとても足りていないと言う事はお分かりいただけるのではないでしょうか。無論BTGがロシア軍の主力を占めているとは言えこれだけでロシア軍の全部隊と言うわけではないですが、どう考えても足りていません。
 ロシア軍の兵力量に対し、展開すべき国境線が長すぎる。これはロシア軍の侵攻の躓きにおいて無視できない要素の一つだと私は考えています。

 二つ目の理由に「軍の編成が、戦略目的と一致していない」事が考えられます。あまり専門的に書いても仕方が無いのでかいつまんで話しますが、先程述べたBTGのお話です。そもそもBTGとはそれまで師団や旅団と言った大規模な編成がソ連のアフガニスタン侵攻やチェチェン紛争で小規模なゲリラ相手に苦戦した事からより小規模な部隊に歩兵、戦車、砲兵、工兵、後方支援部隊を纏めてしまって運用できるようにすれば柔軟に運用できるようになる、と言う発想で編成されたものです。

 ちょっと難しい話をしたので、ここは少し分かりやすく噛み砕きましょう。元々師団は千から二千人程度の歩兵で構成された歩兵連隊、数十門の大砲で編成される砲兵連隊、数十両~百両程度の戦車から成る戦車連隊などを組み合わせて編成されます。これらはそれぞれ独立しており、こうした大規模な編成は他国の正規軍を相手にするには強力ですが、都市や山林に籠って少数で戦うゲリラやテロリストを相手にするには不向きです。
 だから二百人程度の歩兵、十両の戦車、その他工兵、砲兵、補給部隊等を纏めた六から八百人程度で独立して作戦が行える小規模部隊を作ったのです。師団の英語は「Division」ですがこれは「分割」と言う意味です。元々王様が一まとめにしていた数万の軍勢を、それぞれ単独で作戦が行えるより少数の部隊に分割して編成したものですが、今はさらにそれを細かく分割した、と言うことになります。
 さて、こうしたこじんまりとした編成はゲリラ相手のような小規模戦闘には適していますし、複数の兵科を一つの補給部隊が統一管理しているため実戦での運用も楽です。しかしながら現在のウクライナ戦は双方数万から数十万の大軍が激突する戦場であり、ゲリラを掃討するのとは訳が違います。戦車も砲兵も、小部隊に分散配置するより戦車師団、砲兵旅団のように一纏めにして運用した方が戦略的に圧倒的に有効です(ここまで細かく説明すると本当に終わらなくなるのでそういう物なんだと思っておいてください)。

 BTGのような編成はゲリラ戦とか、占領地の警備のような任務にこそ有効です。しかし今回のウクライナ戦では攻勢の主力として投じられ、結果戦車の数の上での優位性を活かせずジャベリン如きに(失礼)名を成さしめている訳です。
 ロシアにとって戦闘の長期化は国内の厭戦感情の沸騰、国際情勢の締め付けの激化、ウクライナへの軍需支援の増加など不利な要素しかありません。それくらいの事は弁えているから戦線を広げてまでベラルーシからキエフへの最短ルートを通って侵攻したのです。しかしながら短期的に戦争を終わらせようと目論みながら、それなら行うべき戦車戦力の集中投入による電撃突破をせず対ゲリラのような装備で侵攻しているのです。要はウクライナなどゲリラ掃討のようなものであってこの程度で十分だと嘲っていたのかもしれませんが。
 因みにロシア軍がそうした小規模編成を主軸にしたのと同様米軍も師団から旅団戦闘団(BCT)を主軸に据えた編成にしました。こちらは歩兵、機甲、ストライカーと三種類存在し、一個当たり概ね五千名弱とロシア軍のBTGと比べ遥かに大規模です。なおこちらも対テロ、ゲリラ戦争のための機動力や柔軟性の高い編成ですが、ウクライナの一件以降もう一度対国家戦争のための重武装化が進められているそうです。

 第三の理由は「外交的理由で動員ができなかった」です。
 そもそも動員とは、平和時において軍に入っている現役の兵士のみならず、一度軍を引退した予備役の兵士も軍に復帰させて戦力として投入する事を言います。これが総動員となると、これまで軍にいた経験も無い民間人を兵士として徴兵する状態で、これをしないといけない国家は既に追い込まれていると言って良いでしょう。

 即ち動員と言うのは国際法上の「戦争」の準備であると言うことです。しかし現代においては国連憲章が戦争を禁じており、宣戦布告を行う国際法上の戦争行為をロシア側から行った場合経済、軍事的な制裁を行われる可能性が大きいためにロシアは宣戦布告を行わず、戦争と呼ばずに「特別軍事作戦」と呼称しています。

 ロシアの言い分としては「これはあくまで地方紛争に過ぎないから」と言うことです。実態は戦争そのものですが、この建前がロシアと、戦争行為となれば国連軍による軍事的介入までもが選択肢のテーブルに乗ってしまう西側諸国を救っているとも言えます。
 しかしロシアにとってこれが「平時における特別軍事作戦」である以上、戦争行為に当たる動員を行うわけにはいきません。即ちロシア軍は平和時の体制で戦わざるを得なかったのです。動員で兵員の補充が得られれば部隊は戦闘力を維持できますが、平時の体制のままなら補充は遥かに困難です。そうなればやがて軍隊組織は出血多量で輸血できないまま失血死に至ります。ロシア軍の勢いが振るわなかった理由の一つにはこれも挙げられるのではないでしょうか。

 最後に「兵站線が薄弱で、攻勢限界点を瞬く間に迎えてしまった」点についても述べておきます。
 兵站、言い換えれば補給が軍隊においてどれだけ大事かは人口に膾炙した概念ですので今更長々と話す必要は無いでしょう。しかしながらイメージだけでは中々実感が湧かないので先に具体例を一つだけ示しておきます。
 古今東西の軍隊、一般兵士にとって最も大事なことは「今日旨い飯が食えるか」であると言っても間違いではないでしょう。現在米軍において戦場で摂取できる戦闘用糧食にMREがあります。これは必要な栄養素を含む食事がその場で調理を要さず摂取でき、かつある程度の味も確保されたものです。仮にこのMREを一日三食食べるとします。一人なら一日三食、仮に一万人の一個師団で摂れば一日三万食となります。十万人であれば三十万食です。これが例えば一か月の間作戦行動を行えば、必要なMREの数は約九百万食と言う途方も無い数となります。当然、一人の兵士の一食でも補給が欠ければ士気が下がる、そうでなくても欠食によって戦闘力が低下する事は疑いありません。

 さて、過去に敗退した数多くの軍隊と同じく、ロシア軍もまた兵站に対する配慮が不足していたと結論付けられます。先述のような食料が一食足りないと言うだけであれば我慢すればいいでしょうが、一週間来なければ餓死しますし、砲弾や銃弾が届かなければ戦えません。機械の補修パーツや燃料、消耗品や補充の兵員も無論兵站から供給されるべき重要な物資です。
 ウクライナは日本で想像するような良質な幹線道路と言うのは前線の幅を考慮すれば極めて少なく、物資輸送の主力となるトラックが安全に行き来できるような道路はそう多くはありません。しかしながら短期攻勢に全力を挙げた(割には不徹底だったけど)ロシア軍は後方から継続的に物資補給を行って戦闘力を維持する行為に対して関心が極めて薄かったと言われています。

 ここで「攻勢限界点」の概念を説明しておきましょう。「勝利の限界点」とも言いますが、攻撃する側が兵力や物資の消耗、後方補給線を守るために部隊を引き抜いたことなどが理由で攻撃力は徐々に低下し、防御側の防御力と等しくなったタイミングの事を指します。ここを超えた先では防御側が有利となり、攻撃側は攻勢限界点に達するより前に作戦目的を達成する事が必要となりますし、限界点を超えたと判断されれば直ちに攻勢を中止して状況の挽回に努めるべきです。

 どれだけ攻撃軍に勢いがあっても装備は故障を起こすし、兵士は疲れるし、進撃すればするほど攻撃側は補給拠点との距離が離れて補給が困難となるので無限の攻撃など有り得ません。必ず攻勢限界点はどこかで訪れます。この攻勢限界点をなるべく後ろにズラすために兵站の稼働効率を高める事が肝要ですが、短期戦一本鎗のロシア軍は短期決戦でウクライナを屈服させるつもりでいたし、だからこそ開戦直後にキエフに向かう攻勢が行われ、空挺部隊がキエフ郊外の空港に降下したのです。
 ロシアの思惑としては空港を確保する事で物資の空輸を可能にするつもりだったのでしょうが結局ウクライナ軍の抵抗で作戦は失敗し、ロシア軍は少ない道路だけで全ての物資を輸送する事を強いられました。結果渋滞が生じた輸送路にウクライナ軍が攻撃をかけたことで補給線はさらに先細り、キエフ前面のロシア軍は開戦三日目で燃料切れになる部隊まで現れ、瞬く間に攻勢限界点を迎えてしまったのです。なおこれは短期決戦の要であるベラルーシからキエフに侵攻した北部軍の話で、鉄道や船舶を輸送用に使えた東部は事情が多少マシだったようですが、本命の北部作戦が失敗すれば彼らの奮戦も無意味と言うものでしょう。

 

 余談ですが、米軍は軍の半数は後方支援部隊だそうです。一方ロシア軍は戦闘部隊の比率が米国に比べて高く、双方の兵站に対する認識の違いがうかがえます。なお米軍の兵站の成功例はノルマンディー上陸作戦や湾岸戦争に見られますので良ければ調べてみてください。
 
 さて、以上四つ、ロシアがウクライナを短期的に打倒できなかった軍事的理由について考察してきました。ハッキリ言ってロシア軍に敗北すべき理由が多すぎて、今回挙げたもの以外にも色々言えそうですが(そもそも侵攻初期全戦線を統括する総司令官がいなかった、航空優勢が確保できなかった)、この辺りにしておきましょう。
 既に一年近くに渡って長期化した戦況は泥沼化し、ロシア軍がウクライナ軍に対して軍事的勝利を収めて戦争を終結させられる可能性は極めて低いと言えるでしょう。しかしながらウクライナ軍がロシアを押し切って勝利になるかと言うと、それも薄いように思われます。
 停滞した前線で双方犠牲を増やすより、何かの形で手打ちとして講和して欲しいと言うのが遠い日本の一般市民の意見です。しかしロシアとウクライナと言う当事者たちの間だけでの外交交渉では決して話はまとまらないでしょう。是非アメリカが外交指導力を発揮し、双方を交渉のテーブルにつかせるべく外交を展開して頂きたいと願いながら、流石に長くなりすぎたのでこの辺で。
 では次の公演でお会いしましょう。